【法改正解説】企業に求められる“真のメンタルヘルス対策”とは

【法改正解説】企業に求められる“真のメンタルヘルス対策”とは
~形式から実効性へ、ストレスチェックの先にある「責任」の時代~
はじめに
近年、労働者のメンタルヘルス不調や自殺、長期休業といった深刻な問題が社会全体で注目される中、企業にはこれまで以上に明確で実効的な対応が求められるようになってきました。
2024年度以降、厚生労働省は「ストレスチェック制度」や「メンタルヘルス対策」に関する運用の強化・見直しを進めており、事業者の対応次第では「安全配慮義務違反」とされるリスクも高まっています。
本記事では、実際の通知文書や行政動向をもとに、今回の法改正の背景と、企業が取るべき実践的対策について解説します。
ストレスチェックの形骸化が問題に
2015年から義務化された「ストレスチェック制度」は、常時50人以上の労働者を雇う事業場において、年1回の実施が義務づけられています。
しかし、実際には「チェックだけして、集団分析や改善には活かされていない」という企業が多く、形だけの制度運用にとどまっているケースが多々見られます。
これに対し厚生労働省は、
「メンタルヘルス対策は“チェックを実施したかどうか”ではなく、“それをもとに改善したかどうか”が問われる段階に入った」
という考え方を明示しています。
改正のポイント①:企業責任の明確化
これまでメンタルヘルス対策は、努力義務に近い扱いでした。しかし今回の改正や通知を通じて、
- ストレスチェックの実効性確保
- ハラスメントや長時間労働といった職場環境の改善
- メンタル不調者への適切な対応
などが実質的に「義務化に近いもの」として扱われるようになります。
特に、メンタル不調を発症した労働者が出た際に「企業が十分な対策を講じていなかった」と判断されると、安全配慮義務違反や損害賠償責任を問われるリスクが高まっています。
改正のポイント②:「4つのケア」の体制整備
厚生労働省が提唱する職場のメンタルヘルス対策の柱が、「4つのケア」です。
ケアの種類 | 内容 |
---|---|
① セルフケア | 本人がストレスに気づき、対処する力 |
② ラインによるケア | 上司・管理職による気づきと対応 |
③ 産業保健スタッフ等によるケア | 産業医・保健師・人事との連携 |
④ 事業場外資源によるケア | 外部カウンセリング機関などの活用 |
このうち、特に②と③、つまり「管理職の気づきと初動対応」および「産業保健体制の機能強化」が今後の企業に強く求められます。
改正のポイント③:管理職教育が重要に
メンタルヘルス不調の早期発見や職場環境の改善は、現場の管理職の対応力に大きく左右されます。今後は以下のような研修が必須になってくるでしょう。
- メンタルヘルスの基礎知識(サインの見分け方など)
- 初期対応の方法(傾聴、受診勧奨、産業医への連携)
- ハラスメントの理解と予防策
- 自分自身のストレス管理
中でも「パワハラ」と「メンタル不調」が絡み合ったケースは、労災認定・訴訟リスクが高く、管理職に対する研修の実施記録や社内通達が、企業を守る“証拠”となる場合もあります。
企業が今すぐ取り組むべき対応とは?
今後の労基署調査や訴訟リスクに備え、企業としては以下のような対策を講じる必要があります。
🔹 ストレスチェックの活用強化
- 集団分析結果を用いて、部門単位で改善施策を立案・実行
- 改善内容と実施状況を記録として残す
🔹 管理職研修の実施
- 年1回以上のメンタルヘルス対応研修
- 新任時・昇格時にeラーニング等の活用も推奨
🔹 メンタル対応フローの整備
- 不調者発生時のフローチャート(上司→人事→産業医)
- 個別面談記録・職場復帰支援計画の作成テンプレート
🔹 外部支援の導入
- EAP(従業員支援プログラム)や外部相談窓口の設置
- 社内の産業医・保健師の体制強化
おわりに
今回の改正は、単なる制度変更ではなく、「企業の意識と行動を変える」ことを求める大きな流れの一部です。
従業員の心の健康を守ることは、企業のリスク管理であり、同時に生産性と信頼性を高める経営戦略でもあります。
LiveAirでは、管理職向けのメンタルヘルス研修や、ストレスチェック結果の活用支援など、企業の実務に即したサポートもご提供可能です。ご興味がある方はぜひお問い合わせください。
【参考情報】
厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/index.html
<労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案>
概要:https://www.mhlw.go.jp/content/001449334.pdf
法律案要綱:https://www.mhlw.go.jp/content/001449335.pdf
法律案案文・理由:https://www.mhlw.go.jp/content/001449336.pdf
法律案新旧対照条文:https://www.mhlw.go.jp/content/001449337.pdf